とれどき!産地ストーリー|株式会社阿部長商店水産事業カンパニー気仙沼ブロック気仙沼フレッシュ工場長代理小川浩

とれどき!インタビュー|魚がない未来は、つまらない ― 魚食文化を守り続ける人 株式会社阿部長商店気仙沼フレッシュ工場長 小川浩
阿部長商店 気仙沼フレッシュ工場長代理・小川浩  (取材:澤田てい子)

阿部長商店 気仙沼フレッシュ工場長代理・小川浩  (取材:澤田てい子)

魚がない未来は、つまらない
  ――魚食文化を守り続ける人「小川浩」

「魚がないと、つまんないんですよ」
阿部長商店 水産事業カンパニー気仙沼ブロック
気仙沼フレッシュ工場長代理・小川浩(以下、小川工場長代理)は、こう言う。
43年、魚とともに歩んできた。
この一見素朴な言葉の中に彼の哲学がある。
それは、ただの好き嫌いの話ではない。
海と向き合い、街と向き合い続けてきた人間の、揺るぎない信念である。

18歳、求人票から始まった43年

入社は18歳。
きっかけは高校に届いた求人票だった。
「遠くに出ようとは思わなかったんです」
山があり、海がある。
冬はスキー、夏は釣り。
この土地が好きだった。
入社当初の仕事は、いわば“魚屋”に近い。
市場で丸のまま箱詰めし、全国へ出荷する。
寒く、重く、決して楽な仕事ではなかった。
それでも辞めなかった。
いま、18歳の自分に声をかけるとしたら「そのうち楽しくなるから」。
その言葉どおり、魚と向き合い続ける中で、仕事は“好き”になった。

魚は、同じ顔をしない

やがてメカジキやマグロを任せられるようになる。
当時の気仙沼には、地元船が40〜50隻並んでいた。
一日1000本のマカジキが並ぶこともあった。
「その中から選べたんですよ」
いまは週に数隻。
漁獲量は減り、資源も減っている。
それでも、小川工場長代理は言う。
「30年、40年やっても、同じ場面はない」
魚は毎年違う。
海も変わる。
だから慣れない。
だから飽きない。
自分の目で仕入れ、思った通りの値段で売れたとき。
「面白いですよ」
その言葉は、少年のようにまっすぐだ。

震災が変えた視点

2011年3月11日。
工場は津波で流された。
屋上から見た10メートルの波の壁。
夜、湾が燃えた。
「ここも安全じゃないなと思ったのが、一番怖かった」
一度は「明日から何やろう」と思った。
一週間後、社長が言った。
「解雇しない。再建する」
ならば、やるしかない。
そのとき小川工場長代理の中で視点が変わった。
復活させるなら、100年、200年続く会社にしなければならない。
目先の利益ではなく、長いスパンで続く仕組みをつくる。
震災は、その覚悟を強くした。

船を泣かせない商売

漁獲量は減り続けている。
船も減り、乗組員も減っている。
「これ以上減ったら、日本の水産は本当に厳しい」
だからこそ、小川工場長代理は考える。
“安く買って高く売る”
それだけでは続かない。
漁師が潤い、
工場が回り、
売り先が納得し、
消費者が「美味しい」と笑う。
「みんながある程度いい思いをしながら続けられる商売」
目指すのは“三方良し”。
周囲が「挑戦」と見る仕事も、本人にとっては「必要だからやる」
自然体だ。
剥きホヤも、クジラの解体も、困っているからやっただけ。
そこに気負いはない。

魚食文化を守りたい

小川工場長代理の原動力は、理屈ではない。
魚が好きだ。
夜は必ず魚を食べる。
魚がないと、物足りない。
「定年になって、スーパーに魚がなかったら嫌だなって」
それは、使命感に近い。
魚だけでは、食卓は完成しない。
米があり、野菜があり、出汁があり、はじめて美味しくなる。
水産と農業は別の産業ではない。
地域全体で食を支える。
魚を守ることは、街を守ることでもある。
漁獲量減少という現実を直視しながらも、
水産業と農業の連携など、新たな価値創造にも意欲を見せる。
目線は、常に未来だ。

顧客の「美味しかった」がすべて

仕入れから加工、販売までを担う中で、最も気をつけているのは温度管理。
どれだけ良い魚を仕入れても管理を誤れば台無しになる。
凍結技術が進化したときも「面白いな」と思った。
いろいろ試し、可能性を探る。
大事なのは注文数の多さではない。
どう企画するか。
どう届けるか。
どう喜んでもらうか。
ネットの口コミで「美味しかった」と書かれる。
年末の対面販売で「今年も来たよ」と声をかけられる。
その瞬間が、何より嬉しい。

まっすぐな人

大きな失敗も経験している。
一度の仕入れで数百万円の損失。
それでも逃げない。
魚と向き合い、海と向き合い、街と向き合う。
こんなに純粋に魚を愛し、まっすぐに地域の未来を考える人はそう多くない。
もしこの人が街を率いたなら、自然を生かし人を生かし、
食を軸にした地方創生を実行するだろう。
そう思わせるだけの説得力がある。
「魚がない未来は、つまらない。」
だから守る。だから続ける。
小川工場長代理は今日も、一匹一匹と向き合っている。
魚食文化を100年先へつなぐために。

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